高齢者は人生に大切なことを教えてくれる

ある日、訪問介護の活動中の出来事。

掃除、洗濯物など一緒に行うご利用者Mさん。
Mさん(男性)はゴミの日、冷蔵庫の食品の賞味期限を忘れてしまうので、声掛けして一部お手伝いする形で生活の支援をさせていただいています。

そのMさん、いつもはテレビを見ながらゆっくりリビングでくつろいでいるのですが、この日に限っては洗濯物を物干し竿にパンツ、シャツ類を通して干していました。
Mさんは片腕を幼い頃事故で切断しています。訪問介護で入る前からご自分で洗濯物を干すことは以前からやっていたことですが(最近は洗濯物をご自分で行わないのですが、今日は洗濯し、干していたのは何故かについて、詳しくは聞きませんでした)物干し竿にパンツ、シャツの脚、腕を通す場所に物干し竿を通して干したことについて、片手でどうやって行ったかが気になって聞いてみました。

Mさんはやわらかな表情で「肩に物干し竿を乗っけて、片腕で通すんですよ」とお話ししてくれました。そしてつづけてお話しされ、その中で印象的な言葉がありました。

「障害があっても工夫してなんとか生きてきて、長年そうだとそれが普通だと思ってくる。健常者と比較してしまうと、確かに不便だろうし、両腕があったらなと思うけれど、比較しなければこれはこれでやるしかないからね」

という言葉。

それを聴いて、思い出したのが障害の受容過程。

障害の受容過程とは

障害受容には次のような段階があるといわれています。

①ショック期:自分自身に何が起こったか理解できない状態。

→しかし、この時期は長くは続かず少しずつ現実を認識できるようになります。

②否認期:自分の障害から、目を背けて認めようとしない時期。

→気持ち的なショックを和らげる意味で重要な時期。しかし、訓練などには積極的ではなく、この時期が長く続くとリハビリを拒否するなどの影響が出てきます。

③混乱期:「怒り」・「悲しみ」・「抑うつ」などが現れる時期。

→介助者(家族・病院スタッフ)とのトラブルが生まれるやすい時期。しかし、この「怒り」は特定の人に向けられたものではなく、行き場のない怒りを出している事を理解して、受け止めることが大切です。

④解決への努力期:様々な事をきっかけにし、病気や障害に負けずに生きようと努力する時期。

⑤受容期:自分の障害をポジティブに前向きに捉えられるようになる時期。

→ネガティブなものではなく、「障害があっても色々な事が出来る」、「障害があるから別の生き方を味わえた」「社会(家庭)のなかで何らかの新しい役割や仕事を得て活動をはじめ、その生活に生きがいを感じるようになった」という様な状態の事です。

もちろん、全ての人が同じような心理的な変化を経験するわけではありません。しかし、多くの方にこうした心境の変化が現れると考えられています。

http://www.mihono.jp/2013/06/post-260.htmlより引用

Mさんのお話しは、受容期に当てはまります。

ということは、ショック期、否認期、混乱期があったことも想像されます。
小さい時、お年頃になる時に片腕がないことに対して、世間からの目線を感じたり、「両腕があったら」と思っていたこともあったかもしれません。

そうやって年月を重ねてきて、今こうして笑ってポジティブに生きているMさんがいるんですね。
その人を理解するのには、こういった視点も大切ではないかと個人的には思っています。

もう一度Mさんの言葉。
「障害があっても工夫してなんとか生きてきて、長年そうだとそれが普通だと思ってくる。健常者と比較してしまうと、確かに不便だろうし、両腕があったらなと思うけれど、比較しなければこれはこれでやるしかないからね」

比較してしまうと。という言葉は本当に私自身には刺さりました。私は「もっと◯◯だったらいいのにな」と思うことは他者との比較から自分の劣等感を悔やむことよくあるからです。
本当に人から見れば些細なことから、人に言えないことまで。

でも比較しない「ありのままの自分を受け入れている」状態であれば、自分自身はそれ以下でも以上でもない。ということなんですよね。

いつもたくさんのことを教えてくださるMさん。

人生の師です。


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彌 一勲

特別養護老人ホーム、訪問介護にて施設・在宅ケアに関わってきました。 ご縁があって出会った“人”の人生、生活に向き合い、専門職として関わることを大切にしています。介護が必要になってあきらめかけた自分らしい生活を介護士が黒子(きっかけ)となって叶う瞬間、ワクワクしている表情を見られる時にやりがいを感じます。 認知症になっても住み続けられるまちづくりを医療介護従事者、地域住民の方々と一緒に考え、行っています。