自分に残された時間が少なくなると

訪問介護のご利用者Bさん。

Bさんは独居で家にこもり、ベッド上で一日のほとんどをすごしていました。

お弁当を頼んでいましたが、食欲がわかないのかほとんど食べず、エンシュアを飲んでカロリーを補っていました。
生活不活病と言われる廃用症候群といえる状態。

こちらの声かけには時に笑顔を見せて返答することはありましたが、ベッド上でほとんどの時間を過ごされ、これまで他者がパーソナルな生活空間に入ることがなかったこともあってか、関係性を築くのに時間がかかりそうな感じ。
清潔保持の清拭など含めケアに対しても、拒否がありました。

ケア介入後の結果から見たら「サービスを利用してよかった」と思えることはあったとしても、やはり知らない誰かに必要もないのに部屋に上がられて勝手に色々されるのは自分に置き換えても嫌です。

関係性を構築するのに時間がかかります。

サービスに入って一ヶ月後には身体の清拭やリハビリパンツを交換するところまではさせていただけるようになりました。

そしてちょうどその頃から、Bさんがベッドから起き上がって過ごす時間が増えました。食事をしっかり召し上がるようになり、お腹が空いて家にあるものを食べ尽くして味噌そのものを口にすることもありました。

そこからも変化が徐々に見られ、「暇だから」とお酒を飲み始めたり、タバコを吸い始めたりと、家族に聞いても以前はあまり嗜むことがなかったということをはじめられました。

訪問しているヘルパーから話しを聞く度に、ケア介入前のBさんと比べての変化を感じられ、心身ともに活性化しているように感じていました。

そしてある日、訪問すると家にBさんがいません。しばらく周りを探しても見当たらず、Bさんのお宅に戻るとBさんは家にいました。
コンビニの袋が部屋にありコンビニに行ってきた様子です。

カツ丼とカレーを買ってきて、ヘルパーにカレーを推めてれたようです。
ヘルパーは丁重にお断りしたのですが、ヘルパーが来るから(?)一緒に食べようと買ってきてくださったのか?

そんなエピソードを聞いた数日後、ご家族から電話がありました。

内容は都内に電車ででかけられ、古くからの友人に会いに行き、その道中転んだのか、骨折し入院した。
そして入院し、検査の結果、末期の肝臓ガン。余命半年と診断されたとのことでした。

Bさんの様子、行動をケア開始時から入院になる日までを見ても、自分に残された時間が少ないと感じ取ったのかもしれないと思えるものでした。

この後Bさんは病院で療養されるのか、ご自宅に戻るのかわかりません。

ひょっとしたらカレーを推めてくれたあの日が、Bさんに会った最後の日になるかもしれない。

毎週決められた時間、決められた場所にうかがって顔を合わせる訪問介護ですが、その日、その時間がその人に会う最後の機会になるかもしれない。当たり前にわかっていることではありますが、そんなことを再確認しました。

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彌 一勲

特別養護老人ホーム、訪問介護にて施設・在宅ケアに関わってきました。 ご縁があって出会った“人”の人生、生活に向き合い、専門職として関わることを大切にしています。介護が必要になってあきらめかけた自分らしい生活を介護士が黒子(きっかけ)となって叶う瞬間、ワクワクしている表情を見られる時にやりがいを感じます。 認知症になっても住み続けられるまちづくりを医療介護従事者、地域住民の方々と一緒に考え、行っています。