大正生まれの人が平成の最後の年に漢字検定をうける

当法人のグループホームご入居者が漢字検定を受けました。

「え?なんで漢字検定?」

なんて思われるかと思います。

漢字検定

グループホームは認知症の方(認知症にも色々な型がありますが、ひとまず認知症ということで話しを進めます)が入居される住まいになります。
そこのご入居者が漢字検定をうける。

私達介護事業所や、認知症の方と接してきた方はよくわかっていることなんですが、認知症と言っても何もかもできなくなるわけではなく、本当にできることもたくさん残されているんですよね。

 

基本的に認知症の場合は最近のことは忘れやすく、昔のことはよく覚えているという傾向にあります。それぞれ短期記憶、長期記憶と言いますが、短期記憶は低下しやすいので認知症の方と話していると昨日の出来事、むしろ毎週、毎日顔をあわせている私のことも覚えていないかたもいらっしゃいます。

逆に学生時代や幼少期のことを聴くとまるで昨日のことのように詳細に鮮明に話してくださいます。
今関わらせていただいている方にとって共通は戦争のことはすごく共通して鮮明に残っているように思います。

ということもあり、グループホームに入居した方々はそれまでの生活で培ってきたものはある程度できる状態。または一部介護職が補助すればできるという方も多い。

なので漢字など普段脳トレでやっているのですが、漢字の読み書きはある程度ずっとやってきているので認知症の方でも覚えているかもしれない。

そんなことで、地域の学習塾の先生とのコラボで今回の漢字検定を受けるに踏み切りました。

いざやってみると、色々見えてきました。できたこと、課題に思えたこと、もちろん両方ありました。

しかし結果としては漢字検定の実施ルールに基づいて、無事みなさんがテストを終了されました。

漢字検定

漢字検定を実施するにあたって、最初のページは名前の記入と性別をマークシートに記入すること、また生年月日を書く作業がありました。

それを記入するにあたって、名前とふりがなは皆さん丁寧にきれいに書いていましたが、マークシート。これが問題でした。

性別女の部分に◯をつけたりする方もいらっしゃいました。
昔からできていたこと、知っていることに対応はできたけれど、マークシートが一個課題。
そして生年月日。西暦で書くことになると皆さん筆が止まります。和暦でないとわからない様子でした。

なので西暦でなく、和暦で書いていただきました。
そんな中、マス目は西暦用に4マスあり、和暦が4マスうち2つに数字を記入され、困って質問された方がいました。

「これ(和暦を指差し)前(文字の前)はいらないんですか?」との質問です。
私は「前に昭和とか書いたらいいと思いますよ」と言葉を返すと
「いや、大正なんですよ」とのこと。

大正生まれでしたか!

大正生まれの方が平成最後の年に漢字検定という新たなチャレンジにトライされるんだ。

いくつになっても新しいことにチャレンジできるんだ。何かできなくなっても、何かしらの助けがあればできる。

すごいなと思いました。

テストが始まると皆様真剣です。雑談なく40分間テストに向き合っていらっしゃいました。

しかし問題の理解が難しく、試験監督の先生に質問される方もいらっしゃいました。

こういう内容の質問がありました。
テストを一通り回答し終えて、見返された後。その見返しが終わってしばらくたってからもう一回見返した方から

「回答欄にすでに答えが書いてあるんですけど」

という質問。ご自分ですべて問題を説いて見返したけれど、数分後に自分が記入したことを忘れていました。

塾の先生は認知症の方と接したことはそこまでないし、対応方法もわかりませんので「御自分で書かれましたから大丈夫ですよ」と声を優しく丁寧にかけてくださいました。

しかし質問者は自分の見に覚えがないわけです。なので、「いえ、最初から書いてあったんですよ」とやや強めの口調で話されました。

なのでグループホームの職員が、『大丈夫ですよ◯◯さん。書いてあるなら、そのままにしておいてください』といつも接する穏やかな口調で声掛けをすると「あら、そうなの」と納得されました。

その後何回か同じやり取りがありましたが、その場にいる人は「そうやって言葉を返したら納得してもらえるんだ。むしろすべて回答書けたんだ!すごい」という具合にそのやり取りを大丈夫、大丈夫ですよ。という気持ちで見守りました。

色々ありましたが、見返したことを忘れて何度も見返す方が多くいらっしゃいました。
でも後々解答用紙をみた先生から「思いの外、みなさんできていますよ」と聞いたのでテストは問題を読んで、回答できたようです。

終わった後にご入居者にテストがどうだったか聞いてみると「書いてはみたけれど、できたかはわかりませんね」なんてところから『合格していたらいいですね』と話しを展開していくと「そうですね。うけたことも忘れちゃうかもしれませんけれど、合格通知が来たら嬉しいですね」と笑顔で話していました。

 

今回は企画した中で試験が無事実施されるのか、ご入居者にとってどんな意義があるのかなど色々不安もある中で始めました。

テストを通して感じたのはやはり「認知症の方でもまだまだできることがある」ということと「いくつになっても新しいことにチャレンジし、前進できる」ということ。また、認知症について理解のある人が増えたらこうやって地域の中で普通に暮らしていけるんだなよな。

ということです。

できなくなっている事、覚えていないことを私達が支援し、メモリーの外付けハードディスクになって実行の支援さえすれば今までのその人の生活を送っていける。

これから地域の中で独居で認知症の高齢者が増えていくことも想像されます。なので住民の方が症状を理解し、どんな風に接したらいいかを知っておいてこれまで通りの普通の関わりが皆でできればいいですね。

そんなふうにこの地域がなっていくのが理想的だなと、この地域の介護事業所の一職員として思いました。

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彌 一勲

特別養護老人ホーム、訪問介護にて施設・在宅ケアに関わってきました。 ご縁があって出会った“人”の人生、生活に向き合い、専門職として関わることを大切にしています。介護が必要になってあきらめかけた自分らしい生活を介護士が黒子(きっかけ)となって叶う瞬間、ワクワクしている表情を見られる時にやりがいを感じます。 認知症になっても住み続けられるまちづくりを医療介護従事者、地域住民の方々と一緒に考え、行っています。

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