車椅子の人の座面高さ+2cmは視える世界が変わる

冬が苦手すぎてカナダでも耐えうる最強アウターを10年に一度の奮発で購入した副施設長補佐の彌 一勲(ひさし かずひろ)です。

町田さんま歩き愛です(事務所ではMSAと読んでいますが)の報告書や理事会や訪問介護の管理者になる為に日々奮闘していました。
そんな中でも、私個人に仕事を依頼してくださった清住の杜町田のご入居者がいらっしゃいましたのでタイトルで述べた結末に向かって書きたいと思います。

車椅子の人の座面高さ+2cmは視える世界が変わる

今年3月開設したサービス付き高齢者向け住宅清住の杜町田(以下清住の杜)のご入居者と私の接点は私が月に二回程度入る夜勤の時に会話する程度なんですが、まずご入居された方には名刺を渡し自己紹介をして10分程度色々お話を聞きます。
自立から介護認定を受けている方までいらっしゃいますが、皆様顔と名前を覚えてくださいます。名刺を渡し、話して、夜勤の度にあいさつし一言声をかける時間を費やしていくと、どんどん個人の持っている人生、バックボーンに触れ会話が盛り上がる事が増えてきます。

「今度飲みにいこうよー」「焼き鳥食べたいから行こうよ」「たまにはお茶していかない?」等色々と皆様にもお誘いいただきます。
そんな関係性が築けてきている中、清住の杜の入り口の受付デスクでパソコンをうっていると
左半身麻痺で車椅子生活をされているご入居者から「彌さんはパソコン詳しいですか?」と声をかけていただきました。スペシャリストでも何でもないですが、解決策はすぐに出せるので詳しくお話しを聞いていくと「昔はamazonとかで注文したりしていたんですが、どんどんパソコンの文字が見えなくなってきたり、ここ(清住の杜)に引っ越した時に住所の登録変更をしたりとできない事が多いので、教えてもらえますか?」という内容のご相談でした。

その時をきっかけに始めてそのご入居者N様のお部屋にお邪魔しました。清住の杜はバリアフリーですが、N様が昔から使っている家具、デスクは車椅子生活になる前に購入したもので長年愛用しているものです。
パソコン用のデスクも長年ご使用されているであろう木製のデスクで、車椅子で移動されているN様が右手でノートパソコンを開き立ち上げる動作を見ていると、パソコンは右腕が上がる高さまでしか開かず。下から斜め上を見上げるようにパソコンの画面を見ていらっしゃいました。

プリンターもお持ちでパソコン右奥に設置してある台に載せてあり、以前車椅子で移動する前のレイアウトのまま引っ越してこられた様子でした。

「パソコンで将棋や株の売買をしているんですよ」等、お部屋でN様がパソコンで行っている事だったり、日々の生活について色々とお話しをしながら、amazonの登録情報を一つ一つ確認しながら変更します。介護の自立支援の精神が身に染み付いているので、以前自分で行っていた事ができて、好きな時に好きなものをお買い物できる方がよいのかな、そういう生活を取り戻せたら素敵かなと自分なりの超直感ケアプランを頭の中で作成し、どこを操作したらできるのか、を一通り説明しました。
なので、みっちりこちらでやりこまずに、説明のあとはフォローアップ体制をとって長期的に関わらせていただこうと思い「わからない事や質問があったらご連絡ください」と私のメールアドレスとすぐつながる電話番号をお伝えしました。

そういうやりとりを繰り返す中、11月頃「年賀状を作りたいんですが、手伝っていただけますか?」と依頼を受けました。私はとても嬉しい依頼をいただけたと思い、快諾しました。
その中でも手伝っていただけますか?という本人の主体性を感じましたし、それを尊重できるように、どこまで私の領域で作業してN様とやるか。を考えました。そしてお話しして、スケジュール感や作業内容をN様を打ち合わせて、年賀状作成プロジェクトが立ち上がりました。

決めたスケジュールどおり私が作業したものをもっていき、N様と微調整しながらデザイン・レイアウトを決めます。
そして、文章をN様に考えていただきました。N様は文章を大まかな文章を日本語、そして海外で仕事されていた経験から英語が流暢でいらっしゃるので英語の名言を入れたいという事でしたので、そのできた文章をメールでやりとりをする事にしました。

N様から最初のメールが

タイトル:update
文章:many thanks,this s jut for testing,

WOH!読めないよー。ニュアンスはわかるけど、こういう言い回し知らないという事で翻訳してみると

many thanks,this s jut for testing,
色々とありがとうございます。これはテストの為に送信されたメールです。

という事ですね。
私も
要件を記入しメールの最後に
Please teach me English

とつけてメールを送りました。

文章も一日やそこらでお返事が来ました。

「お健やかに新年をお迎えのことととお慶び申し上げます。昨年は大変お世話になりました。小生は昨年5月に町田市に引っ越ししました。三食付のサ高住なので気楽に幸せに生活しています。本年もよろしくお願い致します。」
という日本語文で下に文章の
「Success is getting what you want;happiness is wanting what you get{ 成功とは欲しいものを手に入れること、幸福とは、手に入るものを欲しがること」
という文章を送っていただきました。

かっこいいですよねw
そして、清住の杜に移り住んできて気楽に幸せに生活しているというのが、何より私は嬉しかったです。

メールとご自宅訪問を繰り返し、印刷を行う工程になりました。
デザインと文章の印刷はまとまって50枚印刷しました。そして、ここからがN様の大変な作業で宛名の印刷をご自身で行うとおっしゃられたのです。理由としては以前から使っている住所録でお一人お一人精査して出す人だけ印刷するとう趣旨でした。

手順をお伝えし、何回か私が見ている中で印刷をしていただき手順はばっちりでした。しかし、ここで壁にぶちあたりました。デスク右奥のラックに設置してあるプリンターについているモニターが斜め右に稼働するタイプだったのです。

印刷するを選択し、用紙の設定をプリンターのモニターで行うのですが、それが車椅子に座っているN様からだと斜め上を向いているモニターだと見えないのです。

さぁ、どうする。ラックから下ろせば見えるけれど、もう既に色々な定位置があるN様のデスク。という事で、座面についている脚の様子をみて「Nさん、座面にもう一枚クッション敷いてみませんか?」と提案しました。

車椅子使用に関して大切なのが初期設定です。まず必要な機能を備えた車椅子を生活スタイルから見つけ、そして座面の感触、とくに半身麻痺の方だと座面、臀部に一定の圧がかかる事で血液の循環が悪くなり褥瘡につながる事もあります。なので適切なクッション等様々なアタッチメントを自作とアイディアで追加して最適化していくものなのです。

N様の車椅子もフットレストが外れるタイプ(おそらくベッド移乗は自分で行う為に、時にフットレストを外す必要があるからだと思われる)でした。そして、ナットで高さの初期設定がされていました。
要介護中・重度の介護を特養でやっていたのでその人の人生に関わるフィッティングやポジショニングは大変重要だと思っています。うまく嚥下できないご利用者の座っている姿勢と咽頭の向きはどうなっていますか?そういう事を考えたり体の緊張やこわばりがでている部分を察する事で劇的に嚥下の状態も変わってきます。

という事でまず提案をしてみたように、クッションを入れました。
見た目変わったかわからないですが「あれ、なんか心持ち見やすくなりましたねーとも背筋を伸ばしてプリンターのモニターをいじり始めました。そして印刷したはがきが出てくる排紙トレイの中を見渡せなかったのに、クッションを入れた事によって、トレイの中身を取り出す事ができました。

クッションが座って沈んだ事を考えても変わった高さはおおよそ2cm。これこそ、たった2cmされど2cm。人生をかえる2cmだと思います。正直、これも生活をしていく中でやっぱり前のほうが良いと仰り最適な形を模索するトライアンドエラー方式ですが、今回は今回で一つ生活の質を上げる事ができたのかなとも思います。

そうしてN様は印刷作業を頑張っておこなっているのですが、今度はインク切れを起こして電気屋に連絡したりと、色々な課題を一緒に乗り越えて完成にむけて作業しています。

この年賀状作成プロジェクトを通しN様と関わりを持つ事ができ色々な意見交換と談笑ができお互いを知る事ができた。またN様の生活、人生に携わり、少しでも生活や悩みが解決したという実感がもてました。今回も非常にいいチャンスをいただいたなと思いました。

19日あたりに完成させるように頑張っています。

私がやれば1時間で完成する工程ですが、N様と一緒にやって3時間以上経過しています。でもこれが必要な時間なんですね。全てを効率化するだけではなく、その人と人との関わりは時間をかけてゆっくり信頼関係を築いていくものだという事も再認識しました。

■ こちらの記事もあわせてご覧ください。

The following two tabs change content below.
アバター画像

彌 一勲

特別養護老人ホーム、訪問介護にて施設・在宅ケアに関わってきました。 ご縁があって出会った“人”の人生、生活に向き合い、専門職として関わることを大切にしています。介護が必要になってあきらめかけた自分らしい生活を介護士が黒子(きっかけ)となって叶う瞬間、ワクワクしている表情を見られる時にやりがいを感じます。 認知症になっても住み続けられるまちづくりを医療介護従事者、地域住民の方々と一緒に考え、行っています。